医療費の適正化に向けた取組の実施状況についての報告書
(要旨)
1 検査の背景
我が国の国民医療費は、21年度に35兆円を超えて以降、毎年度増加しており、今後の 我が国の一層の高齢化の進行等に伴いますます増大することが予想されていて、これに 伴い国庫負担もますます増大することが予想されている。
このような状況を踏まえて、厚生労働省は、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和 57年法律第80号。以下「高齢者医療確保法」という。)第8条の規定に基づき、医療に要 する費用の適正化(以下「医療費適正化」という。)に関する施策についての基本的な 方針(以下「基本方針」という。)を定めるとともに、5年ごとに、5年を1期として、医 療費適正化を推進するための計画(以下「全国医療費適正化計画」という。)を定める こととなっている。また、都道府県は、高齢者医療確保法第9条の規定に基づき、基本方 針に即して、5年ごとに、5年を1期として、当該都道府県における医療費適正化を推進す るための計画(以下「都道府県医療費適正化計画」といい、全国医療費適正化計画と合 わせて「医療費適正化計画」という。)を定めることとなっている。そして、厚生労働 省は、医療費適正化のための各種の施策を総合的かつ計画的に推進することにより、医 療費の支払に係る国庫負担の増大の抑制を図ることとしている。また、厚生労働省は、 こうした取組と並行して、従来、診療報酬明細書及び調剤報酬明細書(以下「レセプ ト」という。)の内容等の審査及び点検を行う社会保険診療報酬支払基金及び国民健康 保険団体連合会(以下、両者を合わせて「審査支払機関」という。)並びに健康保険法 (大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)等に規定される保険 者等(後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)を含む。以下同じ。)に 対する指導等を通じ、医療機関又は薬局(以下「医療機関等」という。)に対する個々 の診療報酬又は調剤報酬(以下「診療報酬等」という。)の支払の適正化を図るととも に、医療機関等に対する指導及び監査の実施を通じ、診療報酬等の請求等の総体的な適 正化を図ることとしている。
下「特定健診」という。)及び特定保健指導(以下「保健指導」といい、特定健診と合 わせて「特定健診等」という。)が医療費適正化に及ぼす効果について、収集・保存さ れているデータの十分な活用に基づく適切な評価を行うことができる運用状況となって いるか、また、審査支払機関が医療機関等からの診療報酬等の請求の際に行うレセプト の内容等の審査(以下「レセプト1次審査」という。)及び保険者等のうち全国健康保険 協会、市町村、国民健康保険組合及び広域連合(以下「助成対象保険者等」という。) が診療報酬等の支払の終了後に行うレセプトの内容等の点検(以下「レセプト2次点検」 という。)は効率的かつ効果的に行われているか、さらに、医療機関等に対する指導及 び監査は、「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(平成7年12月22日 保発第117号厚生省保険局長通知)の別添1「指導大綱」等(以下「指導大綱等」とい う。)に即して適切に行われているかなどに着眼して検査した。
2 検査の状況
(1) 医療費適正化計画の実施状況等
ア 生活習慣病予防対策としての特定健診等の実施状況
第1期医療費適正化計画(20年度から24年度まで)の期間中の保険者全体における 特定健診の実施率は、当該計画の最終年度である24年度の平均で46.2%となってい て、目標の70%以上を相当下回っていた。また、保険者全体における保健指導の実 施率は、当該計画の最終年度である24年度の平均で16.4%となっていて、目標の45 %以上を相当下回っていた。
イ 病床転換助成事業の実施状況
病床転換助成事業による転換病床数は、第1期医療費適正化計画期間中の5か年度 の合計で3,887床となっていて、病床転換の実施率は、同期間中の転換見込病床数2 5,500床の15.2%となっていた。また、第2期医療費適正化計画期間中の全都道府県 における転換病床数は、25年度では計279床、26年度では計171床にとどまっていて、 同事業は全国的にほとんど実施されていない状況となっていた。
ウ 第1期医療費適正化計画の実績に関する評価
働省は、第1期都道府県医療費適正化計画の実績に関する評価に当たり、全都道府県 に対して、同省の作成した推計ツールを用いて生活習慣病予防対策として実施され ている保健指導が医療費適正化に及ぼす効果額を算出するよう通知していた。そし て、同省は、第1期全国医療費適正化計画の実績に関する評価において、44都道府県 における当該効果額の算出が同省の通知に従い、同省の示した推計ツールに基づい て行われたものであることや、推計ツールの内容等には特段言及することのないま ま、メタボリックシンドローム該当者及び同予備群(以下、両者を合わせて「メタ ボ該当者等」という。)とそれ以外の者の間には年間平均総医療費の額に約9万円の 差があることが判明していることや保健指導の費用を踏まえたとした上で、特定健 診等の実施による効果として、生活習慣病予防対策の効果を算出している44都道府 県の効果額を集計すると約250億円となると公表していた。
しかし、この評価の公表に当たっては、44都道府県における当該効果額の推計は、 厚生労働省の通知に基づき、同省の示した推計ツールに基づいて行われたものであ ること、推計ツールの内容は幾つかの仮定に基づくものであり、特に、保健指導の 実施の効果額算定のための推計を行うに当たり用いられた9万円については、特定健 診を受けたメタボ該当者等の年間平均総医療費に基づき仮定された額であり、生活 習慣病関連疾患(糖尿病及び高血圧症のほか、虚血性心疾患及び脳血管疾患を含 む。)に対象疾患を限定して算出されたものではないことなど、当該効果額の推計 の前提とされた重要な情報を明示する必要があったと考えられる。
一方、厚生労働省は、入院期間の短縮対策については、平均在院日数の短縮に関 する目標等に関する評価を行っており、第1期医療費適正化計画で定めた目標値はお おむね達成されているとしていた。しかし、同省は、平均在院日数の短縮の背景に ついては必ずしも明確ではないとしていた。そして、入院期間の短縮のための療養 病床の再編成の施策として実施された病床転換助成事業については、療養病床の機 械的削減は行わないこととしたなどとして、同事業が入院期間の短縮又は医療費適 正化に及ぼした効果等に関する評価を行っていなかった。
(2) NDBシステムの運用状況と生活習慣病予防対策の効果分析について
の特定健診等データをレセプトデータと突合することができない状況となっていて、 システム構築の所期の目的を十分に達成していないと認められた。
そして、このまま推移すれば、30年度に予定されている第2期医療費適正化計画の実 績に関する評価において、生活習慣病予防対策として実施された特定健診等が医療費 適正化に及ぼす効果について、NDBシステムに収集・保存されているデータの十分 な突合・分析等により得られる詳細な分析データに基づき適切な評価を行うことは困 難であると見込まれる。
(3) レセプトの審査及び点検については、多くの助成対象保険者等において、レセプト 2次点検の実施に当たり、レセプト1次審査におけるコンピュータチェックの具体的な 審査内容について十分に把握していなかったり、レセプト1次審査における査定の具体 的な事由及び再審査で原審どおりとした具体的な理由について十分に把握していなか ったりするなどしていて、効率的かつ効果的に行われているとは認められない状況と なっていた。
(4) 医療機関等に対する指導及び監査のうち指導については、地方厚生(支)局本局及 び事務所(以下、本局と事務所を合わせて「事務所等」という。)において、「集団 的個別指導」及び「個別指導」を指導大綱等に即して適切に実施していないなどの事 態が見受けられた。
3 所見
厚生労働省において、今後の医療費適正化に向けた各種の取組に当たっては、次のよ うな点に留意する必要がある。
め、データの不突合の原因等を踏まえたシステムの改修等を行うなどの措置を講ずる こと
(2) レセプトの審査及び点検については、レセプトの電子化の進展に伴い、従来、助成 対象保険者等がレセプト2次点検で行っていた縦覧点検及び突合点検が審査支払機関に よるレセプト1次審査でも行われるようになってきている状況を踏まえて、レセプト1 次審査又は再審査における具体的な審査内容、審査結果の理由等を可能な限り明確に 助成対象保険者等に伝えることに努めるよう審査支払機関に周知するとともに、当該 具体的な審査内容、審査結果の理由等を把握した場合には、レセプト2次点検における 点検内容について適宜の見直しを行うなどして、レセプト2次点検を一層効率的かつ効 果的に行うよう助成対象保険者等に指導等を行うこと
(3) 医療機関等に対する指導は、保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的とし て実施されるもので、診療報酬等の請求等の適正化を図る上で重要なものであり、ま た、指導の結果、不正又は著しい不当な事態が疑われる場合には監査を実施すること となるものでもあることなどから、事務所等に対して、医療機関等に対する指導を指 導大綱等に即して適切に実施するよう改めて指示するとともに、事務所等における実 施体制を一層整備すること